遙か古代。まだ神世《かみよ》の時代。世界を産みし神々は眠りにつき、一人世界を見つめる神はあることを思いついた。
人が国を造るのであれば、人に近い動物たちに護らせようと。
「どうだろうか?」
神は眷属である陰と陽の二柱に問うた。
「諾《だく》。よいと思う」
「諾。どう選ぶ」
性別を感じさせぬ___というか、性別というものが備わっているのかわからない陰陽が淡々と答える。
「人と共に生活をしている動物から選ぶべきだと思っているよ」
「然り《しかり》。人をよく知る動物がよい」
「否《いな》。人が畏怖《いふ》する動物がよい」
陰陽の意見がわかれ、神は思案する。
陽の言う通り、人を護るのであれば、人をよく知る動物がよい。しかし、陰の言う、人が恐れる動物というのも一理ある。
恐れるということは、本能的に敵わないと感じているからであり、その強者が守護する側にあれば、安寧《あんねい》を覚えるだろう。
「では、陽。人をよく知る動物はなんだい?」
神から問われた陽は、神域から見た人の生活を思い出す。
食べ物を得るために、狩りに同伴する犬。人の食糧を狙う鼠《ねずみ》に、人から餌をもらう猫。田畑を耕す牛と馬に、時を告げる鶏。
「では、陰。人が畏怖する動物はなんだい?」
同じように陰にも問う神。
陰は神域から見た人界を思い出した。
神の眷属として、または神そのものの象徴としてある竜。あらゆる生き物を食らう虎に狻猊《さんげい》。毒を持つ蛇とずる賢い猴《さる》。
「そして、多くの恵みをもたらす羊と猪《ぶた》、子だくさんな兎と蛙」
こうして、人も動物もあずかり知らぬところで、神の思いつきが形となっていった。
人も動物も眠りについた頃、神は夢の中で動物たちに語りかけた。
『十二の王が代わる代わるひととせの王となり、人界を護ってくれるものを探している。我こそはと思うものは、今から三度目の天日《てんじつ》が差すまでに私のもとへ集《つど》うように』
天日、太陽が昇る少し前に、まず時告げ鶏が目を覚ました。
時告げ鶏が美しく雄々しい声で朝を告げると、人々の生活が始まる。
目を覚ました動物たちは、神の夢を見られなかったもの、見たものの覚えていないもの、一言一句しっかりと覚えているものにわかれた。
そして、覚えているものの反応も様々だった。戸惑うもの、意気込んでいるもの、すでに行き方を考えているものもいれば、興味がないものも。
興味がない狻猊は真っ先に辞退を申し出ている。狻猊は、自分はすでに王であり、自分の縄張りを守ることの方が大切だと考えているからだ。
狻猊の不参加を喜ぶものもいたが、いよいよ、動物たちによる競争が始まろうとしていた。
※1 狻猊:ここでは獅子のこと
※2 猴:類人猿を除く猿のこと
※3 猪:豚のこと
※4 ひととせ:一年
0コメント